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「物権変動的登記請求権」

1 「物権変動的登記請求権」とは

(1)松岡久和先生は,(「従来,これを物権変動的登記請求権と呼ぶことが多かった」が,)「契約上の登記請求権と見れば足りるので,物権変動的登記請求権を観念する必要はない。」*1とされています*2

(2)あくまで一つの例に過ぎませんが,以下の事例で考えてみます。不動産の買主Xが,売主Yに対して有する登記請求権を,XY間の売買契約から生じる債権的請求権としてみた場合,当該登記請求権は,10年の消滅時効にかかります。そこで,10年経過後に,Xが,Zに対して当該不動産を譲渡した場合には,XのYに対する当該登記請求権は,(時効の援用がなされたとして)消滅していますから,Zは,Xに代位してYに登記を請求することもできなくなります。もちろん,Xは,所有権を喪失していますから,物権も有していません(Xは,債権的にも物権的にも登記請求権はないものともいえます。)。

 この場合,登記は,Yから誰も移転できなくなってしまうという不都合が生じます。

 そこで,判例は,「売買ニ因ル所有権移転ノ登記請求権ハ独立シテ消滅時効ニ罹ルベキ性質ニアラズ」(大判大正5・4・1)*3として,この不都合を回避しています。

 例えば,鎌田薫先生は,上記のXの登記請求権の法的性質について,「権利変動の過程を忠実に登記簿に反映させなければならないという登記制度の建前を維持するために認められる特殊な権利であることが示唆されているといえよう」*4とご指摘されています。

 この「特殊な権利」とは,いわゆる「物権変動的登記請求権」として把握されるもので,例えば,岡口先生の前掲書・要件事実マニュアル1第5版478頁においても,「本請求権は,請求者が物権的登記請求権も債権的登記請求権も有していないが,登記請求を認めるべき場合に,判例によって特別に認められた請求権」である,ということになるように思いました*5

2 時効取得を原因とする所有権移転登記請求

(1)これは,初学者のわたしにはとても難しい。実体法と登記法が,未接合,あるいは,リンクしていないところに難しさがあるようにも感じます*6

 実体法上は,時効取得は,「原始取得」とされています。しかし,時効取得の登記手続はというと,山野目章夫先生がご指摘されているように,「原始取得したことを素直に表現する登記手続は,用意されていない」*7のです。

 そこで,判例はどう処理しているのかというと,「時効ニ因ル不動産ノ所有権取得ノ場合二其ノ取得当時の所有者ハ取得者トノ関係二於テ伝来取得ノ当事者タル地位二在ルモノト看做サレ」「其ノ所有権ノ取得登記ハ移転登記ノ方法二依ルベキ」(大判昭和2・10・10)ものとされています*8

 しかし,注意が必要なのは,「時効取得を原因とする権利変動は,所有権の移転登記を用いてする」ということではあるけれども,決して当事者間において,「所有権の移転があるものではない」(山野目・前掲書230頁)というご指摘があるところなのかなと思います。山野目先生は,あくまで「転用」であり,「便宜借用」であると書かれています。

(2)ひとつ事例を考えてみます。

 平成11年12月1日当時,善意無過失であったXが,同日から10年間,平穏かつ公然と所有の意思をもって,Y所有の土地を占有した場合で,平成13年に,Yが,Zに対して本件土地を売却し,所有権移転登記をしたという事例で考えてみます。

 このとき,Xが,時効取得を原因として登記をする場合,以下のようになるようです。

登記義務者 Z

登記権利者 X

登記原因 時効取得

登記原因日付 平成11年12月1日

 山野目先生の前掲書231頁を読むと,この登記は,けっして,平成11年12月1日に,Z→Xの承継取得の物権変動(所有権移転)があったことを公示するものではないと述べられています。

 そもそも,平成11年12月1日当時,Zは,所有権登記名義人ではありません。あくまで,所有権移転登記を「便宜借用」していることが,このことからもわかるという趣旨でしょう*9。ここでは,厳密にいうと,Zが,「登記上所有者であるようにみえる状態で生ずる時効取得という権利変動」(山野目・前掲書231頁)が公示されているとされています。判例の「見做サレ」るというところにもあらわれているのでしょうか。

 岡口基一先生は,「紛争類型別なんて怖くない(第5回)」115頁で,「時効取得は原始取得であるといわれていますが,実際には,前主から時効取得者へと所有権が移転するもの」であるから,所有権移転登記がされるのであると述べられています*10判例の「伝来取得ノ当事者タル地位」というところにもあらわれているのでしょうか。

(3)訴訟物―「物権的登記請求権」か,「物権変動的登記請求権」か

 前掲『改訂紛争類型別』では,「物権的登記請求権又は積極的物権変動的登記請求権」が考えられるとしつつも,「通常」,物権的登記請求権である「所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権」が訴訟物であるとしています。(「通常」ということは,その射程はどの事例までなのでしょう?)

 これについては,岡口先生が,前掲「紛争類型別なんて怖くない(第5回),と『要件事実マニュアル第5版』(特に481頁)において,詳細に述べられているところが勉強になります。特に上記紛争類型別の見解の問題点については,いくつもの観点から詳細に述べられています。*11

 そもそも,物権的登記請求権(所有権に基づく妨害排除請求権)として,所有権移転登記請求権を判例が認めているのかどうかについての記述も気になるところです。特に,前掲・『要件事実マニュアル1第5版』の479頁です。これは,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求権の法的性格も含めて考えなくてはならない問題でもあるように思います。

 登記請求権ってよくわからないことだらけですね。

(4)時効取得にいう「原始取得」の意味

 これをもう一度勉強しようと思います*12

 もちろん,「時効」全般についても,もう一度勉強しなければなりません。

 

 

 

*1:松岡久和「LAWCLASS物権法講義ー7」(法学セミナー677号(日本評論社,2011年)74頁

*2:特殊な債権であると考えれば足りるという趣旨であろうか。ちなみに,後述のように,債権者代位ができることから,物権変動的登記請求権は,特殊な債権であると考えることもできそうです。

*3:なお,この判例について,岡口基一先生の『要件事実マニュアル1第5版』(ぎょうせい,2016年)469頁では,「債権的登記請求権が消滅時効にかからないとした判例もある」として掲載されています。

*4:鎌田薫『民法ノート物権法①第3版』(日本評論社,2007年)195頁

*5:ちなみに,岡口先生の前掲書471頁ー472頁の「①~⑧」の事例も参照

*6:あるいは,実体法上の時効取得に関する「原始取得」の概念をもう一度検討しなければならないのかもしれません。後述の岡口先生のご指摘参照。

*7:山野目章夫『不動産登記法概論』(有斐閣,2013年)239頁

*8:『改訂紛争類型別の要件事実』(法曹会,2006年)68頁の訴訟物の箇所も参照。

*9:この時効の起算日を登記日付とすることには,疑問であるとする学説も有力であるようです。

*10:ハイローヤー2016年12月号(辰巳法律研究所,2016年)115頁参照

*11:わたしはここでは詳しく書けませんが,たとえば,登記簿の甲区には,被告までの所有権移転登記が連続しているところ,被告の移転登記だけが,原告の所有権を「妨害」していると解しているのか,また,そうだとするとその理由は何か,等。

*12:第1に,時効取得の場合の「原始取得」の理解についての考え方が問題となっていると思います(実体法レベル)。第2に,登記手続とのリンクのレベルでどう接合するのかが問われているように思います(登記法レベル)。第3に,上記第1と第2を前提として,「訴訟物」,「要件事実」を(具体的ケースにおいて)どのように考えるのかが問われているように思います。なお,「物権変動的登記請求権としての所有権移転登記請求権」としての請求原因については,前掲・『要件事実マニュアル1第5版』485頁参照。